【彫金】銀の指輪を鏡面仕上げにする5の手順【制作工程】

彫金 指輪 リング 作り方 鏡面仕上げ技法・技術編
どうもちょっぴり職人Qlipです。
今回は鋳造された指輪を使い、ピカピカに磨き上げていきます。

アクセサリーやジュエリーがピカピカに輝いているのは、仕上げという作業をすることにより金属の表面を磨き上げているからです。
我々職人は製品を磨き上げることを『仕上げ』すると言います。
仕上げの方法は主に4通りに分けられます。

  1. ほとんど手をかけないバレル仕上げ。
  2. 道具をほとんど使わない研磨剤を使った仕上げ。
  3. 道具を使って鏡のように磨き上げる鏡面仕上げ。
  4. 道具を使って表面にテクスチャーを付ける荒らし仕上げ

今回は2番目を少しと、3番目の方法を細かく解説していきます。
2番目の方法は市販されていたアクセサリーのお手入れをするときに知っていると便利です。
一般的に販売されているアクセサリーやジュエリーは1,3,4のどれかの工程で仕上げられています。
それでは早速リングを磨いていきましょう。

指輪の仕上げ作業工程

  1. 下ごしらえ バレル・湯口磨り
  2. 指輪のサイズだし
  3. 形の整形
  4. 下磨き
  5. 鏡面仕上げ

彫金で使用する工具の紹介

画像の番号順に紹介していきます。

① 木槌
指輪の真円への整形とサイズ出しをする際に、傷つけずに指輪を叩くために使用する。

② サイズ棒
指輪のザイズを確認する道具。
真円の指輪のサイズを計測するためのモノなので、変形の指輪のサイズを測る場合はあくまでも目安程度に使用する。

③ 芯金棒
指輪の真円への整形とサイズ出しをする際に、この鉄棒にリングを通して木槌でたたきます。

④ 鑢(ヤスリ)
物質の表面を削る工具。
今回は金属切削用の「腹丸ヤスリ」を使用しました。
ヤスリは用途に応じて多様な形状とヤスリ目の粗さがあります。
粗目は「鬼目」→「中目」→「細目」のように分類される。
鬼目は主に木工用で彫金では中目以下を使用します。

⑤ すり板
彫金において最も基礎的で必須となる道具。
作業台として使用するため、作業する人によって形状や仕様が変化する。
状況や作業工程によって形状を加工するため消耗品の側面もある。
これがないと始まらないというほど重要で基礎的な工具。

⑥ リューターポイント
後に紹介するリュターに装着する先端工具。
使用する場面に合わせた多種多様な種類が存在し、職人によって使用するアタッチメントが異なる工具です。
今回は私が鏡面仕上げに使用したリューターポイントを紹介します。

⑦ おたふく槌
タガネを使用する際に使用する工具。
今回は刻印を打つ場面に使用しました。
《タガネ》
日本の伝統技法に使われる工具。
様々な種類の形状が存在し、用途によって自作する必要があります。

⑧ SILVER刻印
銀を証明する刻印は「SILVER」と「925」になります。

⑨ 研磨剤
彫金用の研磨剤は多種多様にあります。
どの研磨剤を使うことが正解ということはありません。
今回紹介する方法は筆者の個人的な選択を紹介しています。

⑩ リューター
本気で彫金をするとなれば必需品となる工具。
装着した先端工具(ポイント)を回転させることで様々な加工を可能にします。

筆者はFOREDOM(フォアダム)という種類のリューターを使っています。

下ごしらえをしよう


今回仕上げていく指輪はロストワックス鋳造によって鋳造されたリングを使用します。
指輪を仕上げていくにあたって下ごしらえが2工程ほど必要になります。

バレルをかける


鋳造から上がってきたアイテムは表面が酸化した真っ白い状態です。
この状態からでも加工はできるのですが、金属を流して形になっているだけのこの状態では硬度が低い状態なのです。
そのため、磁気バレルという機械を使い金属同士をこすり合わせます。
バレルが終わった状態でもなんとなくシルバーアクセサリーのような金属光沢がでました。

バレル加工は鋳造を依頼した業者さんにお願いすることができますよ。
バレル前の白い状態に戻す『白仕上げ』という仕上げ方法もありますがそのうち紹介しましょう。

湯口磨り


鋳造は型に金属を流し込む工程があるため、金属が通る道となった部分がついています。
湯口が付いたままではアクセサリーにはできないのでヤスリなどを使って削り落としていく。
今回はリング表面でしたが、鋳造するアイテムの形状によって様々な場所に付けられます

綺麗に湯口を削るのは以外と手間がかかるんです。
そんな湯口磨りも鋳造を依頼した業者さんにお願いすることもできます。

下ごしらえ完了

バレルをかけ、湯口を削り落とすと指輪としての土台の完成です。
ここから磨き上げていきましょう。

ロストワックス鋳造に持ち込むワックスの原型の作り方はこちらの記事で詳しく紹介しています。

【彫金】指輪のロストワックスを使った作り方【制作工程】
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番外編:研磨剤を使ってお手軽仕上げ


本格的な仕上げをする前に工具を使わない仕上げの方法を紹介します。
WENOL(ウィノール)やAMOR(アモール)といったペースト状の研磨剤を使用します。
使い方は少量を布に付け金属をこすっていきます。
ある程度の金属光沢がでますが、形を大きく修正することはできません。
作家さんによっては下磨きの後の仕上げで使用する人もいます。
今回はAMOR(アモール)を使用しました。

筆者としては、アクセサリーを磨き直すのに使用することが多いイメージです。

指輪のサイズ出し


鋳造したアクセサリーは若干縮んでしまうので、指輪は目標のサイズまで広げる必要があります。
芯金棒に指輪を入れ、木槌で叩いていきます。
指輪の形にもよりますが叩いても影響がなさそうな場所を選んで叩くようにしましょう。

複雑な形状や凝ったデザインの場合はあえて湯口を残しておき、湯口を叩くことで他の部分に影響が出ないように整形することができます。

指輪の上下を切り替えながら両側で同じサイズが出るようにサイズを出していきます。
サイズ棒は下に向かって拡がっているので、指輪の上下を切り替えてサイズを確認しましょう。

仕上げの工程で内側も凹凸を削るので、ほんの少し小さいサイズにしておくと完成時のサイズの誤差を小さくできます。

指輪の形を整形しよう


原型の状態でついていた傷や、サイズ出しの際に叩いた影響で歪んでしまった形状を修正します。
ここからリュターを使い様々な加工をしていきます。

整形にはこの2つの先端工具を使用します。

リベッターを使い地金を締める


リベッターはリューターに装着する先端工具で、多面体の角柱状をしたアタッチメントです。
多面体の角を叩きつけ金属の表面を突き固めることで、アイテムの硬度を高め光沢のムラを減らすことができる工程です。

シルバーアクセサリーでこの工程を行うことはあまりありませんが、高価なジュエリーではよく行われる工程になります。
面の広いアイテムほどこの工程の有無によって完成度が変わります。

ヤスリで大きな凹凸を削り落とす


リベターによってできた凹凸をヤスリを使い削り落としていく。
この時に、大まかなデザインのイメージに向けて修正を加え形を作っていきます。
指輪の内側も忘れずにヤスリで表面を整えましょう。

この時にできるだけ細かく形をイメージしておくことが必要。
大きく削りすぎてしまうと修復が非常に困難になってしまいます。

ペーパーポイントで全体を整える


紙ヤスリをロール状に巻きつけたリューターポイントを使い指輪表面を整えていきます。
ヤスリによってできた削り跡である「ヤスリ目」を消すように丁寧に削っていく。

今回使用したのは「#360」の荒さのペーパーポイントを使用しました。

美しい仕上がりのためには丁寧な下磨きこそが重要

傷のない仕上げをするためには段階を経て丁寧に磨き上げていくことが必要になります。
光沢のある鏡面に仕上げるためには細かい段階を丁寧にこなすことが重要です。


下磨きでは硬めのフェルトポイントを使用し、3種類の研磨剤で磨き上げていきます。

研磨剤の粒子が細かくなるほど傷は削りにくくなるため、全面をムラなく磨いていくことが凹凸のない表面を整形するための秘訣です。

研磨剤は1800番、4000番、6000番の白棒研磨剤を使用します。

下磨き前半 1800番〜4000番


荒い研磨剤である1800番を使用し、ペーパーポイントのヤスリ目を丁寧に取り除きます。
全体を整え、さらに4000番に切り替え全体をならしていきます。

SILVER刻印と下磨き後半 打刻と6000番


ある程度磨きが済んだところで、シルバーアクセサリーの証明となる『SILVER』刻印を打刻する。
この時に「SILVER刻印」と「おたふく槌」を使用して品質証明を刻印していきましょう。
磨き上げた状態で打刻しないのは、刻印を打ち込むことで周りの地金が少し盛り上がるからです。

刻印付近を磨くことで薄れない程度に磨いた状態で打刻することが望ましいです。

SILVER刻印を打刻


品質証明を打刻することで、製品の材質を証明することができます。

刻印は材質を証明をするものですが、打刻することに責任も生じます。
打刻する際は材質を証明できることを確認した上で打刻するようにしましょう。

6000番と最終確認


SILVER刻印を打刻した際についてしまった傷も丁寧いに研磨していきましょう。
かなり光沢が出てきましたが最終仕上げはさらに比にならないほどの輝きになります。

6000番で下磨きは完了です。
この時点で指輪が目指すサイズになっていることを確認しましょう。

ピッカピカの最終仕上げ


この工程で急激に銀特有の金属光沢を発揮します

磨きをしていて一番気持ちいい瞬間です。


使用する研磨剤は「テリーナ」と「Pピカ」です。
彫金業界で使われる工具や薬剤はものすごく安直な商品名で面白かったりします。


使用するリューターのアタッチメントは「豆バフ」と呼ばれる布製のポイントになります。
色によって硬さが異なり、柔らかいものほど後半の仕上げに使用します。

テリーナと豆バフ(ピンク)


最終仕上げでは銀の本来の金属光沢を引き出していきます。
下磨きの際についた研磨の痕跡を丁寧に磨いていきましょう。

研磨剤の粒子が細かくなるほどリューターの回転速度を上げていくことで美しい仕上がりになります。

Pピカと豆バフ(白)


全体を優しく撫でるように磨いていきます。
ここまでくるとティシュペーパーで擦るだけでも傷が付いていまうので取り扱い注意です。
鏡よりも反射率が高い銀の金属光沢へ磨き上げることができます。

指輪の仕上げ完了


磨きが終わったらマジックリンなどの洗剤で優しく洗いましょう。
研磨剤は細かい粒子を油で固めたモノになるので、表面に残っている研磨剤を洗い流す必要があります。
最後に水気を優しく拭き取って『仕上げ』完了です。

今回はかなり丁寧に磨き上げました。
デザインのシンプルなアクセサリーこそ丁寧に工程を熟すことで完成度に差が出てきます。
面倒臭い工程ほど丹念に取り組むことが完成した時の美しさに繋がっていくのです。

少々手間はかかりますがきっと満足のいく仕上がりになりますのでチャレンジしてみてください。

今回使用した素材である『シルバー』についてはこちらの記事で紹介しています。

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まとめ

アクセサリーやジュエリーで最もベーシックな仕上げ方となる鏡面仕上げの工程を解説しました。
仕上げの方法としては基本でありながらも、手間のかかる方法になるので、作業した職人さんがどの程度手間をかけて作業したのかを判断することができます。
歪みのない鏡面仕上げをするのは非常に難しいですが、磨き作業を熟していくうちに感触をつかめるようになるはずです。
モノ作りは数をこなすことによる経験の積み重ねによって熟達していきます。

アクセサリーやジュエリーがどのように磨き上げられているのかを知ることで、身近なモノの完成度に興味を持って頂ければ幸いです。

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