【彫金】金属と比重計算の方法!重さを知ることの重要性【知識編】

金属 比重 計算 方法知識編
どうもちょっぴり職人Qlipです。
今回は貴金属の重さについてお話しします。

アクセサリーを作る際に『重量』は重要なファクターとなります。
この『重量』を計算するために必要になってくるのが、各金属ごとの『比重』です。
素材である金属の『比重』は一見するとアクセサリー製作に関係のないことのように思われますが、実はとても重要なことなのです。
これから各金属の『比重』を知ることの有用性について解説していきます。

※この記事で紹介している比重は数値を簡略化しているため、正確なデータに基づくものではありません。

『比重』を知ることで得られるメリット


アクセサリーを製作するにあたって「重さ」はとても重要になります。
これは「重さ」によって着け心地や原価に大きな影響を受けるからです。

アクセサリーの「重さ」は指にかかる負担から、肩こりや頭痛の原因となることがあるため、製作する際にはデザインだけではなく「重さ」にも気を配る必要があります。

金属の「重さ」は使用する素材によって原材料の金額が大きく変わってきます
銀は1g=約90円程度ですが、金は1g=約7,000円程度です(※2021年8月現在)。
このことから使用する金属にもよりますが、製作する際の予算によって素材となる金属に制限ができてしまいます。

以上のことから、完成したアクセサリーの「重さ」を事前に知る必要があります
ここで必要になってくるのが各素材ごとの『比重』という数値です。

『比重』とは
ある物質の密度と、基準となる標準物質の密度との比である。
通常、固体及び液体については水、気体については、同温度、同圧力での空気を基準とする。
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

『比重』は水と物質を比較した質量の比となります。
1グラムあたりの重さを割り出すことによって、別の物質に置き換えた状態を想定することができるようになります。
つまり、原型の素材となるWAXと使用する金属の『比重』を知ることで、製作しているアクセサリーのおおよその「重さ」を導き出すことができるようになります。

この考え方を応用すると、完成したアクセサリーを別の金属で製作する際にも使用することができます。

彫金に使用する主な素材の『比重』


アクセサリーを製作する際に知っておくべき各素材の『比重』につて詳しくみていきましょう。

「 WAX 」の比重:原型製作の素材

ロストワックス鋳造でアクセサリーを製作する場合は必ず使用する素材、それが「WAX」です。

WAXの比重は〈 1.0 〉です。

「 真鍮 」の比重:安価なアクセサリーはこの素材

鈍い黄色の金属である「真鍮」は非常に安価なアクセサリーの素材ですが、アンティークのアクセサリーにも使用され、古美のある味わい深い素材でもあります。
1gあたりの金額も非常に安い金属であり、アクセサリーの素材としては卑金属に分類されます。
アクセサリーとして用いられる際には、メッキ加工を施すことも多々あります。

「 真鍮 」の比重は〈 8.5 〉です。

身近なモノのでは「5円玉」も真鍮で作られています。

「 銀 」の比重:アクセサリー素材の王道

白い金属である「 銀 」はアクセサリーの素材として王道といっていいでしょう。
シルバーアクセサリーというジャンルを確立するほど有名な素材になります。
1gあたり約90円(2021年9月現在)で、素材としては貴金属に分類されます。

「 銀 」の比重は〈 10.5 〉です。

「 金 」の比重:古代より脈々と受け継がれる貴金属

ジュエリーといえば黄色い金属である「金」を想像することが多いでしょう。
古代より装飾品の素材として用いられてきた由緒ある金属です。
「 金 」は割金として使用する金属によって色味の変わる素材でもあります。
この時、使用する金属や金の含有量によって『比重』も変化します
1gあたり約7,000円(2021年9月現在)で、素材としては貴金属に分類されます。

「 純金 」の比重は〈 19.3 〉です。

以下は金種別の比重になります。
「 K18 」- イエロー -〈 15.5 〉
「 K18 」- ピンク -〈 15.2 〉
「 K18 」- ホワイト -〈 16.8 〉
「 K14 」- イエロー / ピンク -〈 13.8 〉
「 K14 」- ホワイト -〈 14.3 〉
「 K10 」- イエロー / ピンク -〈 12.4 〉
「 K10 」- ホワイト -〈 13.3 〉

ホワイト系の比重が大きくなるのは、割金として使用される金属がプラチナ族に属する金属を使用しているからです。

カラーゴールドの割金の比率につきましてはこちらの記事で詳しく解説しています。

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「 プラチナ 」の比重:歴史は浅いが貴重なジュエリー素材

白色の金属である「 プラチナ 」は金よりも採掘量の少ない貴金属です。
白色系の貴金属にはなりますが、「銀」とは違い反射光が黒く見えるため落ち着きのある雰囲気になります。
貴金属としては『比重』の大きい金属のため、小ぶりのジュエリーであっても重さを感じます。
1gあたり約4,000円(2021年9月現在)で、素材としては貴金属に分類されます。

「 純プラチナ 」の比重は〈 21.45 〉です。

以下は金種別の比重になります。
「 Pt950 」〈 20.5 〉
「 Pt900 」〈 19.9 〉

『比重計算』:比重からアクセサリーの重さを計算する


それぞれの素材の「比重」の数値を使って『比重計算』をしていきます。

WAXから金属へ

WAXで製作した原型を目的の金属に鋳造する場合の『比重計算』は以下のようになります。

    WAXの重量 × 目的の金属の比重 = 鋳造されたアクセサリーの重量

例)
WAX「1 g」 × 銀「10.5」 = 鋳造される重量 「10.5 g」

このように金属になった際の「重さ」を予測することができます。
『比重計算』をすることによって完成品の「重さ」を想定することで、着け心地や予算に合わせて原型を修正することができるようになります。

金属から別の金属へ

「銀製のアクセサリーを金で製作する」というように、既にあるアクセサリーを別の金属で瀬作することがあります。
このような時にも『比重計算』は非常に役に立ちます。
元の素材の金属から別の金属で製作する場合の『比重計算』は以下のようになります。

    1. アクセサリーの重量 ÷ 素材である金属の比重 × 希望する金属の比重
      = 鋳造されるアクセサリーの重量

例)
銀の指輪「5 g」 ÷ 銀の比重「10.5」 × K18イエローゴールドの比重「15.5」
= 鋳造される重量「7.4 g」

この『比重計算』によって、各種金属に作り直して製作する際の重さをある程度予測することができるようになります。

銀のアクセサリーを金で作る場合は約1.5倍、プラチナで作る場合は約2倍の重さになります。
ざっくり計算する場合はこのように覚えておくと便利です。

実用的な金属の『比重』の数値


これまでに各金属の「比重」と、その数値を利用した「比重計算」のお話をしました。
紹介した「比重」や「比重計算」は金属の素材単体での数値を使用しているため目安のようなモノになります。

極端な言い方をすると、先程までの計算は製品の金属をそのまま入れ替えた場合の計算になります。
外部へ鋳造を発注する際にはさらに考慮する必要のある項目が増えるため、これから紹介する計算式はとても実用的な内容です。

見積もりを出すにあたって『比重』を変える理由

鋳造を外部に発注する場合「湯口」や「ヘリ」という要素が重さに加算されます。

「湯口」とは
湯口は金属を流し込むために取り付けられる金属の通った道を切断した場所を指します。
「湯口」は設置される場所や大きさが変化しますが、都度場所や大きさが変化するため重量に影響を与えるにもかかわらず予測することが難しいです。
金やプラチナなど、グラムあたりの金額が高い金属の場合「湯口すり」を鋳造する業者に発注することで多少削減することができる場合があります。
「ヘリ」とは
作業時にどうしても回収することのできない金属を指します。
業者や加工の工程によって倍率が変化するのですが、鋳造だけを発注した場合は製品重量の2〜3%の「ヘリ」が加算されます。

単純に「比重」から「重量」を計算した場合、作業工程において発生する金属の重量の増加を想定できていないため、金額的な損失が出る可能性があります。
そのため、見積もりをする際には各金属ごとの『比重』の数値を大きめに想定する必要があります。

見積もりに使える各種金属の『比重』

「比重」の数値を大きく設定すると言ってもどの程度に変更するかが問題となります。

製作する製品の「重さ」は、デザイナーさんや作家さんに相談されることがとても多いです。
今回は職人として働くことで知ることのできた各種金属の見積もりに使える『比重』をこっそりお話ししちゃいます。

《 見積もり用の各金属の『比重』 》

金属金種比重
真鍮9
950 , 92512
K18 – YG , PG –18
K18 – WG –20
K1414
K1013
プラチナ950 , 90023

 

見積もりで金額を安く提示してしまうと、その後高額になった場合の訂正が難しいです。
そのため、見積もり金額に大きく影響する金属の重さは多めに設定する必要があります。
今回紹介した各金属の比重を用いることで、見積もりをする際の原価計算の助けとなります。

最後に

アクセサリーに使用する金属は非常に高価な貴金属であることが多いため、素材自体の「重さ」によって必要となる予算が大きく変わります。
見積もりが甘いために損をする作家さんも多くいらっしゃいます。
調べると「比重」の数値は出てくるのですが、作業工程を踏まえた「比重計算」は誰も教えてくれません。
筆者も職人として仕事をする以前に、彫金を学ぶ中で金属自体の「比重」は教わりましたが、見積もりで失敗した経験があります。
知っていれば回避できることなのですが、ニッチな内容のため知る機会がないようです。

製作活動は時に技術を磨くだけではなく、知識が必要になってくることがあります。
この記事から素材の「比重」を知ることで、損をしない製作活動をするための一助となれれば幸いです。

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